オイノス
昔、ギリシア人はイタリアを、オイノス(ワイン)の国という意味で、エノートリアと呼んでいた。と言って、現代の長靴の形をしたイタリア半島のすべてではなく、マーニア・グレチアと呼ばれたギリシア植民地を指す名称であった。長靴の下三分の一とシチリアが、イタリアにおけるギリシア植民地であったのだから。このように呼ばれるくらいだから、良質の葡萄酒の産地であった。それもただ単に美味い酒を産するというというだけではなく、この一帯で産する葡萄酒は、ギリシア人の影響下にあった地域で産する物の最高級品とされていて、オリンピア競技の勝利者に供される葡萄酒の栄光を持ちつづけていたと言う。さしずめ「オリンピック御用達」というわけであったろう。
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ローマ時代に入ると、反対にギリシア産の葡萄酒のほうが珍重されるようになる。かつてのマーニア・グレチアはもちろんのこと、首都ローマ周辺も葡萄酒の醸造が盛んであったのに、遠方から運んでくるものを好むのは、今に至る外国製品好みと似た現象であるのかもしれない。ビールもあったけれど、これは奴隷の飲料とされていて、ちゃんとしたローマ市民は葡萄酒しか飲まないということになっていた。炎暑下で行軍の後のいっぱいのビールはさぞかし美味かったろうと思われるのに、ローマの武将達は、冷たい水で割った葡萄酒を飲んで、行軍の疲れを癒していたのである。